マー君(原作)

桐原はこの時なぜか言いようのない恐怖を覚えた。

まさか、この近づいてくる人物がキラーなのかもしれない。

だとしたら、自分はどうすべきか?

逃げる?

待つ?

逃げる?

待つ?

逃げる?

桐原は慌てて辺りを見回したが、相変わらず真っ暗で何も見えない。

近くに障害物があるようにも思えない。

いつの間にか目を大きく開き、大きく息を吸っていた。

胸が上下に動き、心臓がドラムを打つ。

背中に冷や汗をかき、着ていた黒いTシャツが背中に貼りつく。

手には大量の汗を握り、滴り落ちそうだ。
 
そうこうしている内に足音がすぐ目の前まで迫ってきた。

桐原の足は恐怖で石のように固まっていた。

覚悟を決め、正面から向かってくる人影を凝視した。

相手は、女だった。

黒い長髪の女がおどおどしながら、近づいてくる。

年は桐原とあまり変わらないだろう。

背が低く、白いワンピースを着ていた。

靴は赤いハイヒールを履いている。

少しお洒落をした少女はこっちを見るなり、軽く頭を下げてきた。

「ど、どうも、初めまして」

桐原は、その少女を見て、何故か心の奥からほっとした。