マー君(原作)

<6>

甲高いサイレンが闇の中に消えると、突然空気が変わったかのように肌寒さを覚えた。


だが、それは気のせいではなかった。

突然静寂を裂くように一気に大量の水が入り込んでくる音がした。

どうやら、水侵が始まったようだ。

桐原は気を引き締めて全神経を集中させた。

もうゲームが始まったのだ、いつどこからかキラーが近づいてくるかもわからない。

かといって迂闊に動けば相手に居場所を知らせてしまうかもしれない。

いくら水音が高くても、広い空間のため嫌でも足音が響く。

だとしたら――。

「くそ、やっぱり動けないのか?」

つい愚痴を漏らす。

その直後後方から誰かが近づいてくる足音がした。

桐原は咄嗟に手で口を覆ったがもはや手遅れだった。

そう、もうゲームは始まっているのだ。

ここからは、一つの油断が命取りになるのだ。

桐原は近づいてくる足音を聞いて、このゲームの注意すべき決定的な点を理解した。

つまり、このゲームで最も重要なものは「音」なのだ。
 
コツ……コツ、コツコツコツ……。コツコツコツ!

足音はどんどん早くなる。