黒薔薇王子




「えっ?」


誰もいないと思っていたから、突然の声に驚く。


声のしたほうに振り返ると、一瞬、時が止まったかと思った。


「ん?聞いてる?

傘、持ってきてないんでしょ?」


「……えっ!!あっ、えっと……」


いきなり現実に引き戻されてまごまごしてるあたしを見て、声をかけてきた人はフッと笑った。


「俺、傘2本あるから。

折りたたみのほうでもいい?」


「で…でもっ!!」


「言ったでしょ?傘もう1本あるんだ。

だから……使って?」


「………っ///!?」


ニコッと天使のように微笑む彼に魅了されてると、いつの間にかあたしの手には黒い折りたたみ傘。


「あの……これ…っ!!」
「黒澤ー!!何やってんだ!!もう委員会とっくに始まってるぞ!?」


あたしの声は体育教師の大きい声に消されてしまった。


「ヤベッ……じゃあまた明日ね。」


彼はヒラヒラとあたしに手を振ると、走ってどこかに行ってしまった。