「言ってる言ってる。『いつか慰謝料請求されるよ、そん時泣きついてきたって知らないよ』って何度も言ってるよね? ゆめのちゃん?」

えっ? 梅森さん、浩平以上に辛辣。

竹之内さんは返す言葉もなくうつむいてしまった。

「もっと自分を大事したほうがいいと思う。まずは自分が自分を大事にしなきゃ。でないと誰からも大事にされないよ?」

もうこんなやり取りは終わりにしたくて、私が口を挟んだ。竹之内さんは、キッと私を睨みつけてくる。

「ゆめのちゃん、帰ろっか」

梅森さんが穏やかに声をかけて竹之内さんの手をそっと握った。竹之内さんは、こくっと力なく頷いた。そうして二人はほぼ同時に立ち上がった。

「待って、梅森さん! せめて連絡先だけでも……」

この期に及んでまだ言うか。そんな宇留野さんに、梅森さんはニッコリ曖昧にほほ笑むと、私たちにも軽くを会釈してから竹之内さんを連れて店を出て行った。

残された三人はしばらく茫然としていた。一体なんだったのだろうこの時間は。

ふと見ると、梅森さんの飲みかけのコーヒーカップ、その受け皿を重しにして千円札が置かれていた。いつの間に……。何から何まで完璧な梅森さんであった。

宇留野さんがそれを引き抜き、浩平に渡す。

「今日は俺が奢りますから、梅森さんに返しておいてください」

「え? いいよ、私たちの分は私たちが払いますって」

「いいからいいから」

言いながら宇留野さんは伝票を手にする。

「その変わり、梅森さんの連絡先、聞けたら聞いてくれませんか? ほんと、聞けたらでいいんで」

言って、照れくさそうな笑みを浮かべて立ち上がった。

宇留野さんも去り、浩平と二人きりになった。冷めたコーヒーをすすりながら、

「竹之内さんも竹之内さんだけど、宇留野さんも宇留野さんだよね」

ため息と一緒に呟いた。ほんとにこの二人は、どっちもどっちだと思う。だけど。

「でもなんだかんだ言っても、イイヤツなんだよなあ、宇留野さんって。だから憎めないっていうか……」

思わず、そんな言葉が零れ出た。

「それわかる。梅森さんと上手くいくといいな」

浩平も同意見のようだった。

「浩平の腕にかかってるよ?」

「だな、ここは俺が一肌脱ぐか」

またしても悪だくみでもしているみたいに、二人で顔を見合わせて笑った。