「まさか、想定してなかった? 自分よりも梅森さんを選ぶ男なんかいるわけないとでも思った?」

浩平の辛辣な言葉に竹之内さんが目を見張る。そんなこと言われたのは生まれて初めてだとでも言わんばかりの驚き様だ。さすがに竹之内さんが気の毒になって、

「浩平、もうそのぐらいに……」

制止しようと浩平の腕に触れると、

「お前がはっきり言えって言ったんだろ」

その手を振り払って浩平が言う。いつの話をしているんだ。確かに言った、言ったけど、今じゃない。

「竹之内さんは幸せになりたくないのかよ?」

浩平が唐突に言い出した。浩平はどこへ向かおうとしているのか、話のゴールがさっぱり見当もつかない。

「なりたいですって! 宇留野さんと付き合えたら幸せになれるって思ったのに。だから今日、来たのに」

「その宇留野さんは梅森さんを選んだから諦めろ」

「薫ちゃんが宇留野さんと付き合うとは限らないでしょ?」

そう反論して竹之内さんは梅森さんに視線をやった。同時に全員が梅森さんを見る。

「付き合わない、付き合わない」

梅森さんは自分の顔の前で右手をぶんぶん振って否定した。

「なんで? 付き合おうよ」

すかさず宇留野さんが願い出る。口調は軽いけど必死さが伝わってきた。どうやら宇留野さんは梅森さんに本気で恋をしてしまったらしい。

「無理よ、こんなイケメン。緊張してなに話していいかわかんない」

咄嗟に本音が口から出てしまったようで、梅森さんはハッとして自分の口を両手で塞いだ。

「三日も一緒に居たら慣れるって」

さすが、『イケメン』などという誉め言葉は言われ慣れている宇留野さん。そこは否定することなくさらりと受け流して、更に懇願する。

様々なやり取りが飛び交うこのカオス。どう収拾をつければいいの? 誰がまとめるの?

「とにかく、幸せになりたいなら、ちゃんと竹之内さんのこと大事に思ってくれる男と真剣に付き合うべきだ」

浩平が話を戻して仕切り直す。宇留野さんはお構いなしに梅森さんへのアプローチを続行。私は気づかれないようにため息。

「今までだって大事にされてきたわ」

「されてないだろ? 都合よく遊ばれてきただろ?」

ああ、とうとう言っちゃった。竹之内さんのために、浩平は憎まれ役を買って出た。

「責めるつもりはないけど、言いにくいのわかるから……。でも梅森さんも、友達ならちゃんと言ってあげないとダメなんじゃないかな?」

浩平は慎重に言葉を選んで優しい口調で言った。