「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」



検査技師さんに「凝固してます」と突き返された検体を持って、空のワゴンと共に病棟へ帰って来た。

詰所は丁度、朝の申し送りが終わったところらしく、集まっていた看護師さんたちが、わらわらと散らばっていく。

採血したのは夜勤明けの看護師さんだから、当然、採血し直すのも明けの看護師さん。さきほど私に、検体を持っていくよう依頼した、明けの看護師さんを見付けて、

「すみません、これ、凝固していたそうです」

そろそろと検体を渡した。受け取った看護師さんは、検体に貼ってある名前シールを見て、

「香川さんかぁ……めっちゃ苦労したのに」

と、今にもその場に崩れ落ちそうなぐらいの、落胆ぶりだ。がしかし、誰かが横からひょいとその検体を取り上げて、

「俺、やっとくわ」

と言った。見れば、涼しい顔した宇留野さんが立っている。

「ほんと? 宇留野さん、神!」

明けの看護師さんは大喜びだった。いつもありがとう、と続けて、忙しそうにどこかへ去って行った。宇留野さんも、何ごともなかったように点滴台へ向かう。どうやら採血の準備を始めたようだ。

『いつもありがとう』

明けの看護師さんが口にしたお礼が頭に引っ掛かる。『いつも』と言った。日勤の宇留野さんが採血のやり直しをしてあげるのは、『いつも』のことらしい。

朝の病棟は、まるで戦場のようにばたついているし、患者さんに、『もう一度、採血させてください』とお願いするのだって、きっとものすごく言い辛いだろうに。患者さんはまた、痛い思いをするわけだし。

採血グッズを入れたトレイを持って、宇留野さんが詰所を出て行く。その後ろ姿に向かって、『めっちゃ苦労する患者さんらしいけど頑張って』と、心の中でエールを送らずにはいられなかった。