翌朝出勤すると、夜勤明けの看護師さんたちが忙しそうに走り回っていた。夜間帯に亡くなった患者さんがいたそうで、朝の業務が押しに押しまくっているようだった。
「おはようございます。お疲れ様です」
すれ違いざまに声を掛ければ、
「あ、ごめん、米山さん。採血、検査に出して来て」
慌ただしく頼まれた。
「はい。いってきます」
検体がのったワゴンを引いて、エレベーターへ向かう。エレベーターの到着を待っていると、すぐ横の階段から宇留野さんが現れた。
「おはようございます」
「おはよ」
ほぼ同時に挨拶を交わした。
「昨日はどうも」
言って宇留野さんは、意味深な含み笑いを見せた。思わず、誰かに見られていないか、辺りを見回した。ほんと、止めて欲しい。考え過ぎかもだけど、誤解されたら困る。
すぐに視線を逸らして、「いいえ」と曖昧に返した。エレベーター上部の階表示を見上げていると、
「今度はカラオケ行こうね?」
耳元で囁かれた。驚いて振り返れば、宇留野さんが私の背後にぴったりと張り付いている。あまりの近さに、心臓がばくばく暴れ出した。
「なっ、何言ってんですか? ちょっと、意味がわかんないです」
「か、ら、お、け。伴奏に合わせて歌うところ」
「カラオケの意味はわかりますって」
近いです、離れてください、と小声で続けたけど、宇留野さんは、
「そんな冷たいこと言うなよ」
と、更に距離を詰めてくる。もう! いつになったらエレベーター来るの? 二台のうち一台は7階で止まっているし、もう一台は、ここ5階を通り越して上に行っちゃったし。



