花村さんはいいよ、看護師さんたちに頼みごとされないから、と。不満は募る一方だった。でもそんなの直接本人に伝えるなんてこと、できるはずもなく。
「花村さん、要らないよね」
と、看護師さんたちがヒソヒソ話しているのを耳にしてしまったことがある。だから、花村さんのようになりたいとは思わない。
矛盾している自分の感情に戸惑う毎日。
本日の業務を終え、重い身体を必死に動かし帰宅。
新築二階建ての2LDKアパート。家賃がお手頃なのと、駐車場が二台分借りられることに惹かれて選んだ。隣人もごく普通の新婚夫婦ばかりで、ここにして正解だったと思う。
最後の砦の階段。上るたびに、一階にすれば良かったと後悔する自分に、年食ったなぁと苦笑が漏れる。
玄関には既に、見慣れた男物の靴があった。それを目にした途端、愛しい気持ちがみるみる膨らんで、パンと音を立てて弾けた気がした。
ついさっきまで私を苦しめていた疲労なんかすっかり忘れて、ダイニングキッチンへと足を踏み入れる。
キッチンに立つ背の高い整った後ろ姿が、炊飯ジャーに釜をセットしてから振り返る。
「花村さん、要らないよね」
と、看護師さんたちがヒソヒソ話しているのを耳にしてしまったことがある。だから、花村さんのようになりたいとは思わない。
矛盾している自分の感情に戸惑う毎日。
本日の業務を終え、重い身体を必死に動かし帰宅。
新築二階建ての2LDKアパート。家賃がお手頃なのと、駐車場が二台分借りられることに惹かれて選んだ。隣人もごく普通の新婚夫婦ばかりで、ここにして正解だったと思う。
最後の砦の階段。上るたびに、一階にすれば良かったと後悔する自分に、年食ったなぁと苦笑が漏れる。
玄関には既に、見慣れた男物の靴があった。それを目にした途端、愛しい気持ちがみるみる膨らんで、パンと音を立てて弾けた気がした。
ついさっきまで私を苦しめていた疲労なんかすっかり忘れて、ダイニングキッチンへと足を踏み入れる。
キッチンに立つ背の高い整った後ろ姿が、炊飯ジャーに釜をセットしてから振り返る。



