「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」

「だし、俺……」

今正に、この場を去ろうとしていたくせに、浩平はまるで会話の続きみたいに口を開く。

「杏奈のためなら何でもできるから。それは苦でも何でもないから……って。何、自分の職場でクソさびぃこと言ってんだよなぁ、俺」

最後はそんな軽口を叩いて、私の方を振り返った浩平。


「どんな羞恥プレイだよ、ふざけんな」

ちょっと不機嫌になって、私の額を右手の指先で軽く突いた。

私、何も言ってないのに。浩平が一人で勝手にベラベラ喋っただけなのに。


「浩平、ぎゅってして? そしたら私、頑張れるかも。我儘も我慢できるかも」

「『かも』?」

浩平は私の顔を覗き込んで、意地悪く微笑む。


「我儘も我慢『できる』から!」

投げやりな感じで言い直したら、その瞬間、全身が浩平の腕に包まれた。ぎゅうぎゅう締め付ける圧がほんの少し苦しいけど、でも、すっごく気持ちいい。


「頑張れ、杏奈」

浩平は低い声で優しく囁いて、私の頭の天辺にチュンと軽いキスをくれた。



こうして私は、浩平にまんまと丸め込まれたのである。(まだ完全には納得していない。当然でしょ?)