数日後――
「おはようございまーす」
誰にというわけでもなく出勤の挨拶を口にしながらエレベーターを降りた。目の前を横切るデカい図体が「はよ」っと低い声で返す。
うわっ、やつれている。一晩でやけに老けた。
「米山……お疲れさま?」
変わり果てた姿となった彼に労いの言葉を掛ければ、
「てめっ、なんで疑問形だよ?」
と、どうしてだか言い掛かりをつけて来る。
相当不機嫌だ。いや、疲れているだけかも? よくわからない。
「何かあった?」
「村橋(君江)さんが夜更かしさんで参った」
ボソリ、米山はため息まじりに答えた。
「ああ、君ちゃん、時々あるよねー」
「他人事(ひとごと)だな」
吐き捨てるように小さく呟き、ふいっと顔を逸らして歩き去る。米山が向かった通路の先に目をやれば、トイレの出入口横のランプが点滅していた。
朝のトイレ介助は夜勤者の最後の大仕事だ。
頑張れ、米山。



