────翌朝。
「じゃー行ってきまーす」
「気を付けなさいねー」
キッチンから聞こえてくるお母さんの声を背に、ローファーの爪先をトントンする。
恭ちゃんは朝練のはずだから、今日私一人の登校だ。
昨日のことを思い出しては…またニヤニヤ。
だめだなあ…一人でこんな顔してたらただの変態だよ……気を付けなきゃ…
───それにしても。
一つ、ずっと引っ掛かってることがある。
それは、何故恭ちゃんは突然私をギューしたのか。
考えてみれば肝心な理由を聞いてなかったんだよね…
私ってバカ。
まぁ本人もよくわかってなかったみたいだし…
幸せだから何でもいいかなーなんて思ったり。
気になるよ?すっごい気になるけどさ。
多分、幸せ者こそが持つことのできる特有の余裕って感じ?
…でも実は、こんなにずっと一緒にいても恭ちゃんの考えてることってよくわからない。
昔からクールにはクールなんだけど、突然突拍子もないことしたりするんだよね。
よくわからんのう…
悶々と考えながら玄関の扉を開けると───
「よ、おはよう」
いるはずのない恭ちゃんが、自転車を脇に立っていた。



