すると夏柑は目尻をくしゃりとさせて笑った。


あたしの一番好きな笑顔だ。



「珍しく素直だな。」



そして、涙を拭いてくれた手をあたしの頭にもってくると、ポンポンと優しく撫でるように叩いた。


涙で滲む視界で夏柑を見つめると、爽やかな笑顔を向けられて思わず俯く。

俯いたあたしの耳元で、夏柑は囁くように言った。





「またいつか会いに来てやる。」





その言葉に、あたしは反射的に顔を上げる。



「だから泣くな。」



大きな声でそう付け足すと、あたしの頭を今度はぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。



「…う、うん!」



あたしは急いで目をこすって、涙が止まるように努力した。

そんなあたしを見て、夏柑は相変わらず楽しそうに笑っている。


これが最後じゃない。


そう思うと、ドアノブを回す勇気が湧いてきた。

だがら…



「ありがとう、夏柑。…今度こそ、ばいばい。」



ちゃんと笑顔でさよならを言おう。



「あぁ、またな。」




その言葉を最後に、あたしは夏柑の事務所を後にした。


帰り道、夏柑が言った『またな』が、頭の中で何度も響いていた。