「ほんとは持って言ってやりたかったんだけどよ…」
「ううん。十分だよ。」
あたしがそう言って笑顔を向けると、和樹は少し照れたように頭を掻いた。
「春花。俺…」
「あっ!夏柑にも今度、ちゃんとお礼言わなきゃ!」
自分の事務所に帰ると言って、さっさと別れてしまった夏柑には、ちゃんとお礼を言えていない。
突然思い出したものだから、反射的に声に出してしまった。
「ごめん、和樹。何か言いかけてなかった?」
あたしがそうきくと、和樹はなぜか落ち込んだ様子で、
「なんでもねーよ。」
と言った。
……?
なんだそりゃ?
まぁ、いっか。
「そう?じゃあ、はやく事務所に戻って海と渉に報告しに行こう!」
「おう。」
和樹の短い返事を最後に会話は途切れたけど、あたしの頭はもうすでに、海たちに何から話そうかということばかりを考えていたので気にならなかった。
だからもちろん、さっき和樹が言いかけた言葉の続きが、告白だったなんて、あたしは知りもしなかった。
和樹だけが続きを知っていて、言えなかった自分が情けなくて、深いため息をついていた。


