「いくぞ、春花。」
マンションを見上げて、少し戸惑っていたあたしに、夏柑が声を掛ける。
「うん。」
あたしは短い返事をして、再び歩き始めた。
「春花さん。気をつけてくださいね。」
冬瓜が心配そうに言うものだから、あたしは無理に笑顔をつくって、
「大丈夫!」
と、言った。
じっとりとした雰囲気を纏うマンションは、あたし達に覆いかぶさるように、あちらこちらに建っている。
その中の、3号棟の口へと入って行く。
中に入ると、4階まで上がり、401号室の前まで行く。
遂に、この時だ。
部屋番号をもう1度確認してから、夏柑と冬瓜を順番に見て、コクリと頷く。
そして、緊張と不安を込めた掌を、ドアノブへとのせる。
《カチャリ》
思った以上に軽い音と共に、運命の扉が開いた。


