なんなのあいつ、
上原ちづる。
あたしが見つめる先にいる、その人は他の男と笑っている。
ムカついたから、今度ダブルデートしよって誘っちゃった。
おととい塗ったばかりのネイルを弾く。
ぱちぱちと音を立てる爪。
きらきらしてて、かわいーなぁ…
「ねぇ、奏太。見て、かわいくない?」
そう言ってあたしは、奏太に手を見せた。
「うお、すげーな。そんなのしてたらなんもできねーじゃん」
渇いた声で笑ったけれど、奏太はやっぱり同じとこを見る。
あたし、
知ってるよ。
上原ちづるが奏太の視界に入ると、奏太がずっと目で追ってること。
でもね、
あたしはそれでもいいの。
奏太のそばに居れれば、それでいい。
たとえ、奏太の気持ちがどこかにいってても。

![無題: 小野寺久子より [修正中]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.778/img/book/genre6.png)
