だが、最悪の悲劇はまだ終わっていなかった。


むしろ、始まりだったかもしれない。


『警告、警告! 隣の村で火事が起きている! 避難するように! 繰り返す…!』


「か、火事だぁー! 山火事だ!」

村の男が叫ぶ。

「いやー、止めて!」

女も叫ぶ。

「パパー…ママー…」

子供も叫ぶ。


「火事…この村に?…絶対なにかあるはず!」

「あ、おい! そっちは危ないぞ! お、俺は警告したからな!」

年よりの男が、女に向かって叫ぶが、聞こえていない。

「…この炎は、もしかして…!?……きゃあ!」

運悪く、足を滑らせ女は倒れこむ。


「痛い…炎が!」

時間がたつにつれ、炎の火力はもっと増す。

「………母さん?」

声が聞こえた。

「あ、あんた!」


女の息子だった。

王の反抗で、捕まったはずの息子だった。


「…あいつは、俺を否定した。この村を否定した…だから!」

「あいつって? 王様? 否定って…きゃっあ!」

炎のせいで視界が上手く見えない。

「そうだよ、あいつさ。だから、俺は全て無かったことにする! だけど…母さんは、助けるよ」

「えっ…」


ここから起きるまでの記憶は、女も知らない。