ガタッ―――。
彼女が入ってきたと同時に誰かが立ち上がった音がした。
誰かは直ぐに分かった。
目をかっぴらき、驚いた表情をしている美月だ。
周りはそんな美月に驚いたのか、転校生でなく美月に釘付けだった。
普段の無表情はさっぱりどこかに消え去り、その肩は後ろから見ていても小刻みに震えてるのが分かった。
同様に俺も、手や足が震えた。
だって、彼女が――――――あまりにも似てたから。
「ど、どうした美月? この転校生と知り合いなのか?」
担任が驚いてそう聞くと、美月はハッと正気に戻ってバツが悪そうに首を振った。
「いいえ違います、なんでもありません」
そう言って、席に座り直した。
「そうか、じゃあ三笠さん。黒板使って良いから自己紹介して」
「はい」
肩までの髪の毛がフワリと揺れた。
違う、顔は似てるけど、声は違う。
惑わされるな、考えるな。
震えが強くなり、俺は強く瞼を閉じた。
見るな、見るな見るな見るな。彼女を、見るな。
カッカッカ―――
チョークで書く音が聞こえた後、彼女は大きな声を出して名乗った。
「三笠 薫(みかさ かおる)です。親の一時的な転勤で千葉から転校して来ました。一応卒業までは皆さんと一緒に過ごすので、仲良くしてくれると嬉しいです」
皆拍手をして彼女に言葉を投げ掛けていた。
特別美人な訳でも、何か飛び抜けてヤバイ所があるわけじゃない。
ただ、懐かしい記憶が俺の胸の中をごちゃごちゃに渦巻いていて、思い出したくない記憶が勝手に頭を駆け巡ってしまうんだ。
止めてくれ、これ以上俺を、俺達を………。
まだこれは始まったばかりだとも知らずに、俺はHRが早く終わることをただただ祈っていた。