八重樫は大袈裟に首を振り、隣の机に腕を組んで座った。明らかに長い話をする体勢だ。
なんか俺、八重樫のスイッチ押しちゃったみたいだ。
「いいか? お前は兄妹だから分からないだけで、俺が美月ちゃんの良さをとことん説明して……」
俺が椅子に座り、耳を塞ごうとした時だった。
ガラガラ―――。
………美月が来た。
唇を開いたままの八重樫は、固まって目をハートにしながら喋るのを止めた。
俺がちらっと美月を見ると、アイツは目も合わさず長い髪を靡かせて席に座った。
「―――はぁ」
息苦しい、なんでよりによって美月と同じクラスなんだよ。 この学校は、主に成績でクラスを決める。
その中で3-Aは特に優秀らしく、進学クラスとも言われている。因みに葉月は3-Cと、一番頭の悪いクラスだ。
美月も東京の国立大学に行くらしく、いつも勉強していた。
アイツは昔から頭が良くて、誰よりも早く宿題終わらせてたっけ。
この学校では、いつも成績トップで、帰りにどこか寄り道して勉強してから帰ってきたりしてる。もちろん、同じ家に居ても一言も喋らない。
周りがざわめき、美月をうっとりしながら見つめていた。
―――ああ、うんざりする。
きっと美月も、俺も。
考えている事は一緒だ。
とにかく、離れて暮らしたいんだろ。
「―――俺もだよ」
そう小さく呟いて、机に顔を伏せようかと思った時だ。
「ほら皆、席につけ~。
今日は転校生を紹介するから、早く座れー」
小太りの担任が、大きな声でそう言った。そこまではいつもと変わらない、いつもの朝だ。
問題は、その担任の後から教室に入ってきた、彼女なんだ。
