いつもより早めにご飯を食べ終えた俺は、玄関の端に置いてある靴棚から自分靴を取り出して、それを履いた。
「榎月くん、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
立ち上がった俺は、エプロン姿の麻紀さんにそう言って、家を出た。
いつから俺達、一緒にご飯食べなくなったっけ?
手を振る麻紀さんも、悲しそうに眉を下げているのが見えて、俺は俯いて歩き出した。
あと一年だ。
こんな毎日も、あと一年で終わる。
気にしたら、何もかも崩れてしまいそうで。
俺は今日も、未来だけを信じて生きていく。
「よ、永原」
3-Aの教室に入ると、友達の八重樫 俊也(やえがし としや)が真っ先に話しかけてきた。
いつもよりテンションが高くて若干引いたし、大体話の内容がよめてしまって、俺は八重樫をスルーして席に鞄を置いた。
「って、シカトかよ!」
俺の腕を掴んだ八重樫は目をうるうるさせて、頬をピンクに染めていた。
はっきり言って気持ち悪い。
「なんだよ、どうせ美月の事だろ」
「そうだよ? そうに決まってるだろ」
なに当たり前だろ?って顔してんだよ。
そう、こいつ八重樫は、俺の一応妹である美月が大好き。このド田舎の学校でファンクラブまで作ってしまう程に。
「やっぱ俺にはわかんないわ、お前の趣味」
無表情で、喜怒哀楽なんて見せなくて、機械的で誰とも話そうとしない。
良いのは、あの整った顔と透き通ったような雰囲気だけ。
しかもアイツの性格なんて最悪だ。可愛くないし、むしろムカつく。
