もう限界だ──
瑠衣と視線が交差し、お互いに意思を確認する。最悪の場合、形振り構わず出口に走る。黒色化した悪霊の相手など俺達には無理だ。
身体を浮かせ、足に力を込める。
出口を確認し、マキさんの動向をギリギリまで待つ。
「・・・さよなら」
不意に紡がれた言葉。
その言葉は、マキさんの口から零れた。
「ヒロ君、さよなら」
3人の視線が一か所に集まる。
乾いた声で、もう一度繰り返される。
ハッキリと、笠原さんに向かって告げられる。
「さよなら」
闇に飲み込まれ、表情も分からなくなっていた笠原さんが、ニコリと笑った様な気がした。
部屋に充満していた圧迫感が一気に消える。
窓際に浮かんでいた黒い塊が形を失くしていく。
ああ、消えていく。
縛られていた魂が、あるべき場所に還っていく。
簡単な答えではない。
本当は分かっていた結末を迎える勇気は、そんなに簡単に出やしない。


