思わず涙が溢れそうになり、必死に堪える。交通事故で恋人を失ったという結末に、無意識に自分を重ねてしまう。


「で、その後マキさんは?」
既に思考が停止している俺を無視し、瑠衣が先を促す。確かに、泣ける話を聞きにきた訳ではない。
当然、赤坂さんもそこで話を止めない。

「マキは全身血まみれになりながら、笠原君の身体を拾い集め、必死に元に戻そうとしていたらしいわ。いくら好きだっていっても、普通ならそこまで出来ないと思う。

本当に、心の底から笠原君の事を愛していたし、彼無しでは生きてさえいけない状態だった。

それは間違いないのに・・・」

「のに?」
中途半端に話しが途切れ、瑠衣が語尾を繰り返す。赤坂さんは困惑気味に話しを続ける。

「当分ショックで出勤出来ないだろうと思っていたのに、マキは翌日も普段通りに出勤してきたのよね。正直、信じられなかった。かけがえのない人を失った翌日から、いつもと変わらず仕事が出来るなんて」

「あの無愛想な接客が、いつも通りなんですか?」
瑠衣が厳しいツッコミをする。
それに対し、赤坂さんは苦笑いで応える。

「実際は、全然笑わなくなったし、まったく遊ばなくなって、定時になると真っ直ぐ帰宅する様にはなったんだけどね」