ホッとしたのも束の間、室内の温度が急激に下がり、夏だというのに鳥肌が立ち始めた。

背後に感じる強力な圧迫感に、本能的に振り返る。そこで俺が目にしたモノは、暗闇で鮮明に浮かぶ漆黒のヒトガタだった。ユラリと動く度に、闇が濃くなり殺意が充満する。

ヤバい──などという生半可な気配ではない。おそらく、もし俺が独りで遭遇していたら、生きる事を諦めていた。そういうレベルの存在だ。膝がガクガクと震えて動けない。


しかし、俺達に背を向けた除霊士は違った。右手に御札をトランプの様に持ち、悪霊と対峙する。

何やら呪文めいた言葉を呟くと、悪霊に向けて御札を放つ。すると、紙で作られているハズの御札が、空気を切り裂く様に飛んで行く。

しかし、寸分違わず悪霊を目掛けていた御札が、悪霊にあと1メートルと迫った空中でピタリと止まる。そして、御札がヒラヒラと床に落ちていく。

「信じられません。中位の御札を無効化するほどの霊体が、普通の空間にいるなんて」


まさか、プロの除霊士でも無理なのか?