反射的に1歩、2歩と後ずさる。
 何となくではあるが分かる。
 人ではない。
 あれは人ではない。
 では、あれは何だ?

 白い人影は動かない。
 圧迫感は感じない。どちらかと言えば儚い、というか淡い空気をまとっている。

 ハッとして、自分の左手に視線を落とす。
 これが、数珠の効果なのか?
 悪霊を成仏させろと言われても、見えないことにはどうする事も出来ない。もしかして、この数珠をはめた者には霊が見える様になるのか?
 まさか、そんな事が?

 賽銭箱から目を放し、境内をグルリと見回す。
 最初に目にした人影に気を取られていたが、境内の雑木林や石灯籠の陰に、こちらを窺う白い人影があった。

 やはり、そうなのか?
 左手から数珠を外す。すると、一瞬にして人影が消えた。

 数珠を目の前に掲げる。
 これを使って悪霊を探し出せ、という事だ。あの白い人影が悪霊・・・なのか?
 人を害するというより、逆に怯えている様に見えた。あれが悪霊?