「いえ、そうではなくて、話しをしに来ただけです」
「帰って!!」
「10分、いや5分」
閉じられようとした扉の隙間に、強引に爪先をねじ込む。
「警察呼びますよ!!」
「あ、えっと・・・そ、その髪留めは、萌香ちゃんの手作り。誕生日にプレゼントしてもらった物でしょう!!」
母親の動きが止まる。
「ママに買ってもらった髪留めが嬉しくて、萌香ちゃんがお返しに作った」
「なぜ、それを・・・」
「信じられないかも知れませんが、萌香ちゃんと話しをしてきました」

「足を・・・足を引いて下さい」
ダメなのか?
「チェーンを外しますから」
カチャリと音がし、少し軋みながら扉が開いた。

「どうぞ。話しを聞きます」
「あ、失礼します」
俺は促されるまま靴を脱ぎ、入ってすぐのリビングに上がる。2LDKの室内は1人では広く、どこか寒々しい。

母親はどこか生気が無く、妙にやつれている。
扉の向こう側からは見えなかったが、なるほど、これが例の髪留めか。黄色い蝶の髪留めがストレートの髪に付いている。