実は、彼女はご主人様でした。

いつでもサクッと自分の想いを打ち明けることができたら、こんなに悩む必要もないのに、人間は欲深いもので、どうしてもその先を考えてしまう。


ダメで傷つくのも遠慮したい。


いい返事の場合…は、まったく想像がつかない。よって、不安は倍増。


色々と考え過ぎて、全く授業に身が入らない真人の机を、小さくトントンと叩く指が視線に写り込んだ。


白くて細い指の持ち主は桜雪。苦笑い気味の桜雪の表情が、逆光によって真人の瞳に完璧に映り込まない。思わず桜雪を凝視した。



「今、授業中だよ。ため息、結構聞こえてたりするから」

「え…あぁ、ごめん…」



数十人、少なくはない教室の中、全員が真剣に授業を聞いているわけではない。けれど、うるさいわけでもなく、静かな時間をそれぞれが過ごしているだけ。そんな中、真人のため息は桜雪に気付かれるほど響いていた。



「いいえ。悩める男はツライってやつですか?」

「……あぁ、まぁ」

「まぁ。適当に言っただけだけど、当たったの?」

「はぁ…また、ズルイね。美倉さん」

「ズルイ?」

「そう。悩みの種は美倉さん、君だって言うのに」

「え…私…?」

「はい」

「?どうして?よく分からない。私何かしたかな…」



控え目な動作に、小さな声。授業中に行われている二人だけの会話、そして表情、全てが真人の心を更にくすぐる。