「………んだ、これ…」

「ん?」

「なんだ…これ…ド、ドキドキしてる…」

「え…?」

「いや、待て。落ち着かせるから」

「え、え?」



真人に背を向け、桜雪は深呼吸を繰り返した。



「まだドキドキは止まらないが、何とか落ち着いたぞ」

「そ、そう?」

「あぁ。何だろうな、これ。自分でも驚きだ」

「そ、そっか…。落ち着いたのならよかった…」



桜雪の表情を見ていた真人は、唾を飲み、感情を抑えることに必死だった。
あの表情を見れば、どの男でも確実に自分に引き寄せている。
けれど、桜雪は自分の感情を自己完結しようとしているのなら、そこを掘り下げることもしたくない。
 

桜雪のことを考えての抑制だった。



「と言うことで、後少しの辛抱だ。もう少し付き合ってくれ」

「…分かった」



そんな放課後から数週間後、意外にも早くその時は訪れた。