実は、彼女はご主人様でした。

「え…内緒って…今更…」



 桜雪が男子生徒に呼び出されたことは、その場にいたクラスメイトは知っている。そして、それが告白のためだと言うことも分かっている。その返事がダメだと言うことも今更だ。


何が内緒だと言うのだろう。


そう状況は判断できるはずなのに、真人の心情は乱れていた。



「……冷静に考えることはできるはずなのに、さっきの表情は反則でしょ。心臓に悪い…」



希望がないと言い聞かせるようにつぶやいたのが、ほんの一瞬で吹き飛ぶ。思えば、こんな状況は何度目だろう。


自分自身に呆れてしまう。


そんなため息をもらしながら、真人は教室に入ろうと窓際から離れた。その真人の前に、戻ってきた桜雪が笑顔で立っている。


思ってもいなかった登場に、真人は驚く。



「……えっ!…っと…どうしたの?美倉さん…」

「さっき見てたでしょ」

「え…あぁ、見えた、が正解」

「私、一応相手に配慮しているつもりなの」

「…配慮?」

「そう。御断りする時の配慮」

「…へぇ…」

「お付き合いするつもりはないから、告白されても初めから返事は決まってる。だから、せめて御断りするときは丁寧に、そして人目につかないように」

「へぇ…それは…ごめんなさい」

「ううん、いいの。見えちゃったんでしょ?それなら謝る必要ないよ。だから…」



桜雪は真人の口元に人差し指を軽く当てると、先ほど見たイタズラな表情を浮かべた。



「内緒、ね」