「あ、名前のことだよね?ごめん。それで俺はいいよ。もう一回言ってよ、名前」

「えっ…えぇっ!?も、もう一回…あ、あぁ、いいさ。呼ぶぞ!」

「うん」

「し…しん…と…」

「ん?ごめん、聞こえない。はっきりと言ってくれる?」

「え…あぁ、し…真人…真人!」

「ははは。いいね、聞こえた。でも、桜雪も照れることがあるんだ。さっきまでの態度といい、かなり姉御肌だったから、そう言ったことは得意なんだと思ってたよ」

「て、照れてなんかない!!」



これを一般的にはツンデレとでも言うんだろうか。


否定する桜雪を見て、呆気に取られていた真人にも余裕が持てるようになった。



「初めて見た、桜雪の照れて恥ずかしがる姿」

「べ、別に…。ほら、今までは犬と人間で向き合っていたのが、今は同じ年の人間同士。しかも男女と来たもんだ。私は犬として今まで見てきたのに、なんというか…複雑だ…」

「あ、そう…。まぁ、男として見られてるみたいだから、俺としては安心しました」

「そ、そうか。じゃ、明日からよろしくお願いします」

「はい、俺の方こそ、よろしくお願いします」



こうして桜雪と真人の二人の交際は始まった。次の日から呼び合う名前に、全校生徒が二人の関係を認識するには時間が掛からなかった。


またたく間に広まった真人と桜雪の関係は、今まで桜雪に好意を持っていた男子生徒に絶望を与えていた。