実は、彼女はご主人様でした。

人間だった桜雪が50年生きるのは何も疑問に思わない。
けれど、犬であった真人が50年生きるのはどう考えても不可能だ。



「しかも肉体が滅びたのは私が先だ」

「え…?じゃ…俺は生きてたの…50年」

「まさか。犬が50年も生きるわけがないだろう。私が死んだすぐ後にお前も死んださ」



色々な事情があることが分かる会話だが、桜雪の返事には何となくホッとした真人がいた。

前世が犬で、更にはペットだったと言われ、更には今と同じ既視感を見る力があり、それで50年も生きたと言われた日には、今の自分が本当に人間なのか疑いたくなってくる。



「じゃ、どうやって…50年も?」

「そりゃ、幽霊というものだ」

「はぁ…幽霊」



力の次は幽霊だ。

でもあり得ない話ではない。

真人は驚くこともせず、疑うこともしなかった。

そして桜雪の言葉は続く。



「私は、人間によって殺された」