実は、彼女はご主人様でした。

桜雪が真人の頭に手を置いた。そしてその手はゆっくりと優しく撫で始める。


予想していなかった出来事に、真人の思考は停止した。


思考が停止すると、桜雪が再現していた世界が崩れ、見慣れている教室内の風景に戻った。

つまり、現実に戻ってきたと言うことだった。



「こうしてやると、お前は喜んでいたな」



桜雪の手は動きを止めない。
だが、悪い気もしなかった真人は、頭にある桜雪の手に自分の手を重ねた。



「俺、今は犬じゃないんだけど…」

「私の中では太郎そのものに見えるんだが…」

「……それ、大問題です…」

「まぁ、仕方ない。そうやって二人で過ごしてきたんだから」



出会ってから一体どれだけの年数を一緒に過ごしてきたのか、桜雪の言葉から疑問に思う。



「そんなに関係は長かったの?」

「あぁ、そうだな。50年は共に過ごしたと思う」

「50年っ?」