実は、彼女はご主人様でした。

桜雪が言うことが何となく飲みこめてきた。

今立っているこの場所は、真人と桜雪が出会った場所。そして、桜木の下にいる美人な着物姿の女性は、桜雪の前世の姿と言うことだろう。


しかし、自分の前世である太郎はどこにいるのか。


どこを見渡しても姿が見えない。



「あの、どうして太郎はこの中にいないのかな?」

「あぁ、このビジョンはちょっと複雑だからな」

「複雑?」

「この既視感は元々太郎の既視感だ」

「太郎の既視感…」

「そう。その既視感の世界を作り出した時の私の既視感だ。だから太郎が見えないんだ」

「あぁ、なるほど。そういうことか」

「しかも、これは太郎に私の力を初めて見せた時の場面だな」

「へぇ…」



 桜雪が言っていたことに納得はしたくないが、ため息交じりに受け入れ始める。

確かにペットの立場だが、よく言えば相棒と言うことではないのか。そう言った淡い期待もある。



「だから…」