実は、彼女はご主人様でした。

「……よく、分からないな…」

「前の体の時に、私はその力を使い人々の糧になればと思っていた。けれど、やはり人間は欲深い。私もそうだったのかもしれないが、それは、時に利用され、そして私自身も狙われ始めた。そんな時に出会ったのはお前だ」

「俺?」

「そう、犬だ」

「………」



今置かれている状況と、説明の言葉を受けて信じようとしている時に「犬」と言われるのはどうも複雑な気分になる。



「ねぇ、美倉さん」

「何だ?」

「その犬に名前はなかったの?」

「あぁ、あった」

「じゃぁさ、その名前で話を進めてくれない?なんというか、犬だ犬だと言われて結構複雑な気分になるんだよね」

「分かった。じゃ、そうする。…太郎と出会ったのもその頃だった。私は人が見た既視感を再現した世界を作り出すことによって、人が持つ心の闇や悩みの解決方法、そして喜びが見つかればと思ってやってきた。だが、私はそう言った人たちに勝手に崇められ、ついにはその力を手に入れたいがために、私の血肉を求め、何度も何度も襲われた。同じように信頼していた人間から裏切られ、傷ついた太郎は、私の元にたどり着いた。そんな状況を体験したなら、本来は人間を見ただけでも怒りがこみ上げてくるはず。だが、不思議と太郎は私を見ても怒りを露わにすることなく、擦り寄ってきた。その姿がまた可愛くてなぁ…」