実は、彼女はご主人様でした。

「なぁ、真人」

「何?」

「私は今までにないくらいに幸せだと思うんだが…」

「………」




先ほどまで向けられていた笑顔が、途端に背けられ、視線が下に向けられた。

どういう表情をしているのか真人は想像がついたが、思ってもいない素直な言葉に、嬉しさを覚えた。



「それは嬉しい…な…それは、俺がいるから?」

「…それもある。けど、桜雪にも感謝している。人間には色々な感情があることを私は知ることができた。こんなにも…その…」

「ん?」

「えっと…その…」

「何?聞こえない」

「……き…た…から…」



呟く桜雪の言葉を聞き取ろうとするが、かなりの小さな声だったため、不可能だった。

真人は小さな溜め息を漏らし、桜雪と向き合った。




「ちゃんと言わないと、もう一回キス、するぞ」

「へ!!キ…キスっ…」

「はい、3,2,1…」

「こんなにも、好きだから!!」

「……はっきりと言ってくれるのは嬉しいけど、何というか、キスされたくないのかと複雑な心境…」

「え…」

「いや、いい」



そして、真人と桜雪は景色を朱色に染める夕日を眺めた。


握られた手が、二人の影を一つにしていた。



<完>