実は、彼女はご主人様でした。

前の体、これは前世とか出てくる話なんだろうか。真人は目の前にいる桜雪から視線を逸らした。


これ以上関わってはいけない気がする。


けれど、今まで込み上げるほど好きだった相手を瞬時に嫌いになれるほど器用にもなれない。
そもそも好きだ、好きじゃない、と言う話だったはず。


なぜ話が変わったんだろう。



「…お前は覚えていない…のか…」



真人の頬に桜雪の手が当てられる。

そして、そのまま逸らした瞳を合わせるように、桜雪は真人の顔を自身に向けた。

言葉使いは全然違うが、困ったような表情は桜雪そのもの。

真人は思わず顔を赤らめた。



「覚えていないって何を?」

「私のことだ」

「今向き合っている美倉さんのことは全く知らない」

「……そうか」



落ち込む表情がまた可愛く思えた。


意地悪で言ったわけじゃなく、本当に真人は今向き合っている桜雪のことは知らない。