実は、彼女はご主人様でした。

動かなくなる太郎の姿が脳裏に浮かぶ。


何もできなかった桜雪。


ずっと撫でていたことも気付かれない。


そして、ずっと触れていたのに、太郎の体は冷たく硬くなっていくのが目に見えて分かる。どうにかしたいはずなのに、黙って見ることしかできない。



「私と出会わなければ、太郎はもっと幸せな日々を送ることができただろうに…。私が太郎の人生を狂わせたようなものだ。だから、私を大切に思う気持ちは捨てたほうがいい。また私は真人を苦しませるかもしれない」

「いい加減にしない?俺は桜雪がいいの。それに、太郎は人生を狂わされたなんて全然思わなかったと思うよ。だって、俺、桜雪の過去を見てきたけど、太郎が自分のことを不幸だとは全く思わなかった。一緒に過ごした時間、とても幸せそうに思えたよ」

「え…」

「それに今俺、人間。しかも男の子。ちょっとは彼氏に頼ってよ。特に目立っていいところもないし、平凡な位置づけだけど、彼女を幸せにしたいって思う心は負けないと思ってるよ」



桜雪の瞳が潤む。


なぜ涙が出てくるのかは分からない。

けれど、真人の言葉が心に響いたことは間違いなかった。

そして、その気持ちを誰よりも感じ取ったのは桜雪を抱きしめている本来の桜雪だった。