実は、彼女はご主人様でした。

死なせない。
死なせたくない。


桜雪はその思いでいっぱいだった。そうして、桜雪は本来の桜雪の中に入り込むことになり、そうすることで桜雪を守ろうとしていた。

 
絶対に死なせない。


そう思い、桜雪の中に入り込むと言葉に答えるようにか細い声が聞こえて来た。


いいえ、死なせて。


本来の桜雪の声だった。

暗く闇に染められた桜雪の心の中、必死に桜雪は本来の桜雪の姿を探す。
すると、心の奥底に本来の桜雪は体を丸め座っていた。

虚ろな目をユラユラとさせながら、桜雪と目を合わせずに言葉を話している。



「死なないで欲しい」

「これがチャンスなの。本当に私を解放させてください」

「嫌だ。お前は私の魂の一部を持っている。だから、お前は私自身でもあるんだ。だから絶対に死なせたりはしない」

「…そんなの、あなたの勝手じゃないですか。私はあなたのことなんて知らない」

「知らないのは当然だ。魂の一部を持っているだけであって、お前は私の生まれ代わりということではないからな」

「…じゃ、ほっといて」

「嫌だ。私は長い時を魂だけの姿で彷徨ってきた。いや、彷徨うと言う表現は間違っているかもしれないな。私は大切だと思う奴を見守り続けた。それは今もだ。そいつとお前がもうすぐ出会おうとしている。私は嬉しい。幾度となくそいつの幸せな姿を見て来た。今度はその幸せな時間にお前がいるかもしれないと思うと、私は嬉しくてたまらない。だから、何が何でも死なせるわけにはいかない」