実は、彼女はご主人様でした。

桜を愛で、優しく触れるその姿に、桜雪は太郎の生まれ代わりが幸せに暮らしていることを悟る。

それは桜雪のとって嬉しいことには違いない。

現に太郎の生まれ代わりは、現世で共に時を過ごしている家族を連れて来ていた。

互いに笑顔を向け合い、可愛い子供の手を取り歩いている。


生を受け、過酷な時を過ごし、家族からも裏切りを受けた桜雪にとって、その場面は現実のように思えなかった。幻のようにも思えた幸せな家族の一場面は、桜雪の心に大きな穴を開けた。


自分にはなかったあの場面。
自分にはなかったあの時間。
自分にはなかった家族の愛情。


開いた心の隙間を塞ぐために、桜雪は太郎の生まれ代わりを見守り続けた。幸せな表情、時間を共に過ごすことで、桜雪は自身にある寂しさを埋めていった。


側にいるが、気付かれることなく桜雪は一人で見守り続ける。


やがて太郎の生まれ代わりは寿命を迎え、次はさまようことなく転生をすることができた。

それから幾度と太郎は生まれ代わりを続けるが、それは人間の時もあれば動物の時もあり、草木の時もあった。それでも桜雪は静かに見守り続け、太郎は再び人間として生まれ変わることになった。


そんな時、桜雪を縛り付けていた桜の木が枯れる。


夢にまで見た解放。

かつて既視感を呼び出した時にはかれることはないと思っていた桜。願望でしかなかった映像は現実になった。