実は、彼女はご主人様でした。

桜雪との時間に終わりが来ていることを感じ取った太郎は、自分が完全に消えてしまうまで、桜雪から視線を逸らすことはなかった。

別れの決意を込めた強い視線と、その裏に見せる寂しさ。

太郎からの視線を逸らすことなく、桜雪も太郎を見ている。太郎の想いは桜雪に届いているが、桜雪は同じような視線を送ることはせずに、常に柔らかな笑顔を向けていた。


寂しくはない。
太郎は太郎の道を行け。
のことを気にすることはない。


そう心で思いながら、二人は残された時間を互いに過ごし、ついに、桜雪の側から太郎の姿は消えた。

最後に小さく鳴いた太郎の声を桜雪は心に仕舞い、その思い出と共に桜の木の下で一人時間を過ごしていった。


 
太郎は転生を迎え、人間の子として生まれた。



当然太郎には前世の記憶はない。だが、縁はあるのか、転生した太郎はよく桜雪の前に現れた。

人間が来たことに驚いた桜雪は、かつての夜叉になりかけたが、懐かしい気を感じ取り、すぐに力を押さえ、様子を伺った。

そして、太郎の生まれ代わりだということが分かると、桜雪は桜の木の下に現れた太郎の生まれ代わりに手を伸ばす。


触れることは叶わず、また太郎が桜雪の存在に気付くこともない。


仕方のないことだった。


もう立場が違う。