「あ…えっと…藤井君だよね？」



同じ顔、同じ髪、同じ体、同じ声。
それなのに、何かが違うことを真人は感じ取った。


真人のことを”藤井君”と呼び、少し遠慮気味に聞くその姿は、よく知っている桜雪とは正反対に見せている”裏”とも呼べる姿だった。


瞬きをして真人を見ている姿が何とも言えず心に衝撃を与える。


思わず真人は桜雪の髪に手を伸ばしていた。
戸惑いながらも触れた髪の毛は、真人の掌から滑らかに零れていく。



「桜雪…俺の知っている桜雪はもういないんだ…」



大きな目を開いたまま桜雪は真人を見ている。
そして少し首を傾げ考えると、手を伸ばしていた真人の手を取り、桜雪の頬に当てた。



「でも、藤井君の知らない私も桜雪よ」

「………」



桜雪に手を取られ、真人の鼓動は反応していると言うのに、目の前にいる桜雪は反応することなく普通に話している。


あんなにもドキドキを口にして、赤らめた顔を恥ずかしそうにしていた桜雪はどこにもいないのか。