50年……。
それはとてつもない時間だろう、と思った。
「僕はね、この国を愛しているんだ。王子だから、とかじゃなくて…本当に。」
そう話すエルノの顔はとても優しくて、本当にこの雪の国を愛おしく思っているんだろう。
それでも、深刻そうな顔にすぐ戻ってしまった。
「ここ数年…この国の国民の心は荒んできた……目に見えて分かるほどに。」
…そんな風には、私には見えなかったんだけどな…。
「だけど…僕はこの国に何もしてあげられない。策を打つことも出来ないまま、毎日を繰り返すだけ…。お城に住みながら何の権力もない、ただの王子。
それを、国民も知っている。」
それは、国王になれないことを指している。
エルノは、悔しそうにぎゅっと眉根を寄せた。
「何も出来ないことは……辛いことだ。自分が無力だと、認めたくなんかないのに…。現実の僕は、無力だ…」
エルノはもう泣きだしそうな顔をしていた。
私と出会った時からずっとニコニコしていたエルノ。
でも、本当はこんな気持ちを抱えていたんだ…。
きっと、国民の誰にも言えない気持ちを、無関係の誰かに聞いてもらいたかったんだろう…
それでさっき、強引に私を『友達』にした。
両親を失い、荒んでいく国を目の当たりにしながら何もできず。
国民にも、執事のおじいさんにさえも、本当の気持ちを打ち明けられない。
この人は、きっと孤独なんだ、と思った。私には、想像もつかないくらい……



