前の狼に目をやると、まだこっちを威嚇している。
……怖いんですけど。
「グルル…」と唸り声を出しながら狼がまた近づこうとした時、また声が聞こえた。
『やめないか!!』
さっきと同じ声だった。
やっぱり後ろに飼い主がいるのかと振り返るけど、背後にも狼しかいない。
そしたら……
『全く…お前はすぐ威嚇する』
背後にいた狼の口がパクパク動いて、それに合わせて声が聞こえる。
さすがに想定外すぎてビックリした。
しっかり見てみると、背後にいる狼よりも、私を威嚇してきた狼の方が目の前にいる狼の方が小さいみたい。
背後の狼は毛並みがキレイで、ものすごい貫禄と迫力がある。
背後にいる狼の方が立場が上なのだろうというのは、雰囲気で察しがついた。
背後の狼は、私の目の前の狼をずっと見ていた。
目の前にいた狼は、わずかに後ずさりする。
私はポカンとするばかりだった。
ジリジリとした空気の中、また背後の狼が一喝する。
『ここは立ち去れ!』
それを聞いた目の前の狼は、クルリとひるがえし去っていった。



