大阪から赴任してきた白木部長は優しげな関西弁だった。単身赴任だったせいか部下達とよく飲みよく食べる上司だった。明るく、清潔感がある。美男子ではなかったけれど色っぽい人だった。糊がパリパリに利いた白いワイシャツ。(ワイシャツをクリーニング屋に出しているからだ。)センスのいいネクタイ。(もしかしたらどこかの飲み屋のおねえさんにプレゼントされたものだったかもしれない。)短髪をムースで濡れたように立たせているのに、湿度が高くなると少し緩んでしまう少し癖のある髪。細い目をさらに細めながら何かを考えている姿も、嬉しい時に少し驚いたように笑う姿も、とても色っぽかった。

そして、いつもではないけれどごくたまに甘い匂いがすることがあった。香水の香りなのか、いつもと違うムースを使うからなのか、そういう香りを、毎日ではなくてたまに嗅ぐとなんだかちょっと卑猥と言ってもいいくらい色っぽいと思う。そして、そう思っていたのは加奈子だけではなかったと思うけれど、どうなんだろう。他の社員と白木のことについて話したことはなかった。多分、みんなと白木の話をするのをあるときから避けていたからかもしれないけれど。

彼を独り占めできる夜があるというのは気分が良かった。彼のことを「カズヒコ」と下の名前で呼べるのも自分だけなのだ、と誰かが始める「白木部長」の噂話をかわしながら思っていた。