商店街に鮨屋は2軒あるが、あづま寿司の鮨が卓(すぐる)はことのほか好きだ。どこの鮨屋に行っても彼はかならず「あづま寿司にはかなわないよな」と付け加える。加奈子は上寿司を二つ7時半に出前してもらうように電話をかけて、チラリと掛け時計を見た。あと2時間ある。

料理をするのは嫌いじゃない。OL時代には料理教室に通った。気が向けば大きな白い皿に幾つ物小鉢や小皿を並べて酒の肴になるような前菜を並べる事も苦じゃなかった。夢見るような専業主婦の生活。実際はもっと生活感が溢れる細かい事が当たり前にあるのだけれど、時々更新するブログで人が少し羨むようなテーブルセッティングをするくらいの事をやってのける事もできた。

二人分の揚げ物は勿体ないような気がするけれど、三年振りに帰ってくる夫を迎えるのに勿体無いなんて言ったらバチがあたる。卓が好きなのは、茄子の天ぷら。舞茸。ニンジン。かき揚。どれも少しずつ、本当にたった二人分。これでも残ってしまうかもしれないけれど、残ったら明日食べたらいい。揚げるだけに下ごしらえを済ませる。それから新婚の頃卓がとても美味しいと褒めてくれた小エビのカクテル。それから・・・。