それでもあたしは「あの人」が心に住み着いて、離れられなかった。
愛してたし愛されてたはずなのに、「あの人」はあたしじゃない他の人を選んだ。
なんて、一人思い返していると突然、腕から引き離された。
焦った様子の翔に目をやると、慌ててタバコに火を付け出した。
「何?」
「いや、別になんでもねぇよ!」
「何?」
しつこく聞くあたしに、翔は小声で答えた。
「…俺、さっき他の男とは違うって言ったくせに、お前抱き締めてたら…」
「ヤりたいの?」
翔の言葉を遮って、あたしは言った。
「バカ!ちげぇわ!」
「いいよ。」
見事なまでに同時に言葉を発した。
「いや、俺は…」
「したくないならいい」
そう言ってあたしもタバコに火をつけた。
