私が声を上げた時、

「……♪」

バシッ!!

蓮太は素早く動き、突っ込む羽恭の体勢を横から足を出して崩した。

それでも羽恭の体は、勢い余って私の席に突っ込む。

「たく…」

「…??」

翔はいきなり私の前に立った。

「あんまり世話やかせんな」

翔はため息ついた後、突っ込んでくる羽恭を避けて、

「よっ」

私に被害が及ばないように上から、羽恭の襟を掴んで持ち上げた。

「なっ、何すんだよ、テメー!!;」

羽恭は焦って怒声を上げる。

「あ…悪い」

翔は大人しく羽恭を下ろした。

その様子を見た女子達は囁き合う。

「ちょ…今…あの眼鏡の先輩…カッコよく見えなかった?!」

「気のせいじゃない?」

「目がおかしくなったのかな…??」

翔は面倒くさそうに頭を掻く。

「ハァ…」

私はホッと胸を撫で下ろした。

「ゴメン、美桜」

愛斗は苦笑いする。

「大丈夫でーす」

私は殺気を飛ばしながら、笑顔で言った。

「あはは…それは良かった;;」

愛斗は思わず苦々しい顔をした。

「天瀬愛斗!正々堂々、1対1俺と勝負しろ!!」

羽恭は愛斗の方を向きなおして、真正面から言う。

「いや…此処は人多いから、べつの場所にしないか??;」

「逃げるのか?…そんなに俺が怖いか??」

羽恭は笑う。

「あぁ?!」

愛斗は羽恭を睨む。

「……」

あいつ短気?!挑発にのっちゃダメでしょ!;;

私は心配しながらも、大人しく見守る。

「死ねぇぇぇぇえ!!」

羽恭はもう一度、殴りかかった。

「調子にのんなよ…」

愛斗は瞳孔の開いた目で羽恭を見つめる。

赤いカラコンが入っているせいか、睨んだ時の迫力が増す。

羽恭は愛斗の威圧感に圧倒され、突っ込む直前、少し戸惑う。

「そんな拳じゃ…」

愛斗は突っ込んでくる羽恭より早く、羽恭の懐に入り

「…!?」

「俺は殺れない」

と呟いて、羽恭の腹部を殴った。

ドンッ!

羽恭は倒れる。

「ゴホッ…ゲホッ…うっ;;」

羽恭は咳き込み、腹を抑える。

そんな羽恭に、愛斗は

「早く消えろ…目障りだ」

と見下して、怒りの表情で言った。

「くそ…っ」

羽恭は少し震えながら、腹を抱えて教室を去った。

「あーあ」

蓮太は『面白くない』とでも言うように声を上げた。

「……」

翔はやっと開放されると、呆れた表情だった。

「愛斗…?」

愛斗を見つめながら、不安で、呼んでみる。

一部始終を見ていた女子達は、ナイフのような冷たい視線を愛斗に注ぐ。

それもそうだろう…。

あんなの見たら、誰だって怖くなる。

悪い噂だって立つ。

人間は良心的な人ばかりじゃない。

嫉妬・ねたみ・ひがみ…色んな人が色んな感情を持っていて、時には人を傷つける。

何も悪くなくても…、結局はそうなる。

でも、私は分かってる。大丈夫だと…伝えたい…。

「大丈夫?」

私は憂いを含んだ目で愛斗を見つめる。

それに気付いた愛斗は、

「大丈夫だよ」

と笑顔で微笑んだ。

ねぇ…今、無理してない?作り笑いした?

聞きたくても聞かないよ。

答えは分かってるから…。