「時々会いに来るから、元気でね」
そう言って出ていったのは母。
いや、ついさっき他人になった人。
父と母が離婚したのは昨日のこと。
最後の荷物をもって出ていったのは母親の方。
あたしは今日から父と2人暮らしを始めるのだ。
幼い頃から家族3人で過ごした記憶はなくて「奈々のために働いているの」と言われ両親が家にいることさえ、あまりなかった。
仕事仕事で家に帰ってこない父と、“仕事の同僚”と言われる男の人とずっと一緒にいる母。
両親に愛された記憶はない。
小学校の時、母が初めて“仕事の同僚”を家に連れてきた。
聞いてはいけないと思っていたけれど、母は気にもせずあたしに言った
「この人ね今度、お母さんと結婚するのよ」
あたしは母が言ったことが理解できず、ただ“仕事の同僚”が父になることが気持ち悪くて仕方がなかった。
それから両親が離婚するまで5年もかかった。
なかなか会うことができず、離婚の話が進まなかったらしい。
そして、高校に入学する10日前、離婚が成立。父と母は他人になったわけだ。
あたしが父を選んだ理由?
それは、未知の生物を連れた母より、あまり話したことのない父の方がよかったから。