電話を切って、気持ちを落ち着かせた。

涙を拭いて、私は部屋を出た。


龍星君、私の顔を見たら怪しむかな?

だって、私の目、真っ赤だろうし。

"どうしたの?"って聞かれたらどうしよう…。

なんて言おう…。

"泣ける映画観てた"って言おうかな。

それか素直に…

"龍星君に会いたかった"って言おうかな…。

もういいや。

その時に考えよう。





「それ、本当なの?」

「本当だって!!あたしが今まで嘘ついた事あった?」

「ないけど…」

部屋から出ると、リビングからママが誰かと話している声が聞こえた。

"誰か"というか…この声って…楓さんの声だよね。

楓さん、何しに来たんだろう?

盗み聞きはダメ。

それは分かってはいるけれど、私は壁にピタッと体をつけて、気付いた時には耳をすませていた。

「でしょ?あたしが言うんだから本当なの!信じてよ!」

何の話だろう…。

楓さんが、ママに何かを訴えているみたい。

「うん…」

ママは、まだ納得していない様子だ。

しばらく二人は黙り込んだ。

先に口を開いたのは楓さんだった。

「ほんとにりゅう君は良い子だよ。確かにね、見た目は真面目そうには見えないんだけどさー。でも中身はね、ほんとに良い子よ。とにかく、優しいの。凄く優しくて…繊細で…心が弱い子なの。"弱い"っていうのは、悪い意味じゃないよ。優しいから、すぐに自分を責めちゃうの。」

りゅう君って…龍星君の事だよね?

なんで、龍星君の話をしてるの?

「でも楓ちゃん…あの子…煙草吸ってるんでしょ?」

穏やかに話す楓さんとは違い、ママは不安そうに言う。

「それはもう過去の事よ。りゅう君ね、昨日から禁煙始めたんだよ!あたしと約束したの!煙草とライター、ちゃんと預けてくれたし。だからもう煙草は吸わないよ!」

「…そう。じゃあ、私が聞いた噂…その彼が、地元で何か問題を起こして逃げるように楓ちゃんの家に来たっていう話なんだけど…。本当なの?」

「それは嘘だよ。だって、あたしが一番最初に言ったんだもん!"りゅう君、夏休みはうちで過ごしなよ"って」

龍星君、禁煙しているの?

この一週間の間に何があったの?

ていうか、龍星君がソラの家にいるのって、楓さんが龍星君にそんな風に言ったからなんだ…。

だめだ…。

気になりだすと息が荒くなる。

落ち着け樹菜。

楓さんは続けた。

「あたしが知っているりゅう君は、今のりゅう君だけ。地元の事とか、家族やご両親の事とかも、全然知らないの。でも、あたしと空は、りゅう君を信じてるの。悪い子じゃないって。…信じてあげないとダメな気がするの。」

私は耳をすませながら、"私も龍星君の事信じてるよ"と、心の中で言った。