ほんとの笑顔が見たかったんだ

家に帰り、玄関のドアを開けるとリビングの方からオカンが顔を出した。

「空!りゅう君放ってどこ行ってたの?」

「どこだっていいだろ」

心配そうに聞くオカンにそっけなく言って、自分の部屋に向かった。

「空、どうしたの?」

そそくさ歩く俺の背中に向かって問いかけるオカン。

「別に」

振り返らず、自分の部屋に入った。





「龍星…」

部屋に入ると、俺はその場で立ち尽くした。

龍星が、ベッドに背中をつけ、膝を抱えて座っていたからだ。

ぼんやりと一点を見つめている。

俺の問いかけにも答えない。

「龍星!」

「…ソラ」

大きい声でもう一度名前を呼ぶと、龍星はハッとして俺の方を向いた。

「ソラ…俺がここにいる事でソラに余計に迷惑かけると思うから、俺今日実家に帰るよ」

俺の方に向けられていた顔を伏せた。

なに勝手に"帰る"とか言ってんだよ…。

「あんなヤツらの言う事に従ってんじゃねぇよ」

とりあえず、俺はベッドに座って、龍星の隣に並ぶ。

「もう俺…これ以上ソラに迷惑かけたくない…」

小さい声で龍星は言った。

何弱気になってんだよ…。

「前にも言ったけど、俺、お前に迷惑かけられた覚えねぇし」

「ごめんな…」

「なんも謝るような事してねぇのに謝ってんじゃねぇよ…」

俺がそう言うと、龍星は何も言わなくなった。

「てか、行ってきたけど結局、あいつを調子に乗らせて終わった…言いたい事全然言えなかったし…」

虚しくなる。

俺は後ろに倒れ、ベッドに寝転がった。

ため息をこぼし、その後話すのをやめた。




お互い、話さなくなってどれ位時間が経ったんだろう…。

俺は気付いたら眠っていた。

微かに、玄関の呼び鈴が鳴った音が聴こえた。

そして、しばらくすると俺の部屋のドアが開いた。

「…空、りゅう君。起きて」

オカンの声…。

目を開け、枕元に置いていた眼鏡をかけて体を起こした。

龍星も、顔を上げた。

頭がボーッとする。

窓の外を見ると、少しだけ空が薄いオレンジに染まっている。

「空、りゅう君」

オカンはもう一度、俺らの名前を呼んだ。

俺と龍星は、オカンの顔を見た。

「今すぐ来なさい」

そう言うオカンの表情は、いつものオカンとはかけ離れていた。

とても深刻そうな表情。

嫌な予感がする。

「早く立って、ママについて来て。」

俺と龍星は、オカンに言われて、ゆっくり立ち上がりついて行った。