そのパンダはリリアに突き飛ばされたことに怒りを感じているのか、リリアをぎりぎりと睨みつける。
目を大きく見せる化粧のせいで、それは余計に迫力があった。
だが、リリアも負けじと睨みかえす。

「万由里の体が汚れちゃったぁ、こんな雑魚に障られて」
万由里というのか、万由里は甘えた声を出して、傍にいた男の肩によりかかる。
「!!」
気が付くと、万由里の周りには10人くらいの男が群がっていた。
「まぢうざいんだけど、こいつら」
万由里がそういうと、周りの男たちはクスクスと笑う。
「俺がつぶしておこっか?」
そう万由里に問いかけるのは、万由里の側近?相棒?らしき顔の整って身長も高い男。
「いいよぉ、学がいったら瞬殺ぢゃん」
そういってクスッと笑う。

・・・こいつらほんとムカつく。

まだ万由里を睨みつけているリリアの腕を無理やりつかんで、そのまま私たちは逃げるようにその場を後にした。
背後から、

「てかあいつらまぢ不細工ぢゃん、かわいそぉー」

なんていう声が聞こえてきた。

さっきのパンダが見えなくなるくらいにすすむと、「なにあの感じ悪い女っ!!!」といってリリアは床をバタバタと踏みつけだした。
私はまだずきずきと痛む手を握り、さっきの校長の言葉を思い出していた。

“人が集まれば、必ず痛みや苦しみが生まれる。”

・・・そういうことか。

「どうやらあのパンダがこの学校を仕切ってるみたいだね」
周りに群がる男たちや、あの偉そうな態度から薄々と理解できた。
すると、リリアは私が「パンダ」と呼んだことにつぼったのか、吹き出した。
「ぱんだっぱんだぱんだぱんだーー!」
子供のようにはしゃぐリリアが可愛らしくて、自然に笑みが漏れる。
「気にすることないよー!!ここではクラスなんか関係ないんだし関わらなければいいだけっ!」
まぁ、リリアの言うとおりだ。
リリアのこういうプラス思考なところが好きだなぁ・・・。
私たちは顔を見合わせて微笑み合った。

ふと窓の外を見ると、ベンチでイチャイチャしているカップルが目に入った。
やっぱり出会いを目的とした人もいるのだろう。
・・・。
そういう光景を見ると、やっぱり思い出す。

「帆南和良(ほなみかずら)」と付き合っていた日々のことを。
チクリ・・・と胸が痛んだ。
しかし、もう会わないであろう人のことを思い出したって仕方がない。