目の前に大きな建物が視界いっぱいにたたずむ。
「おぉ・・・」
ネット上の世界とは思えないほどの現実味に私は感嘆の声を漏らした。
後ろを向くと、大きな校門。
どうやらここがこの世界とリアル世界との出入り口のようだ。

私は自分の体に何も異常がないことを確認して、再び「うぉぉぉ」と声を出す。
リリアなんか感激しすぎて「うっへえええい」と奇妙な声を発しながら飛び跳ねているほどだ。
「黙ってれば美人なのにな・・・」
と、もちろんリリアには聞こえないようにぼそりと呟く。

「君たち、今日入学した子?」

突然背後から声をかけられ、リリアは「ぎゃあっっはっはっは」と驚いているのか笑っているのかよくわからない声を出す。
「あ、はい今日入学しました」
そういいながら振り向くと、スラリと全体的に細い印象を持たせる、茶髪でロングヘアーの女性が立っていた。
胸元に「校長」と書いてある。
なるほど、この学園での管理人だろう。

「初めての子はまず、あそこで制服をもらってね」
校長はそういうと、校門のそばに小さく立っているまるで小屋のような建物を指さす。
へぇ、制服なんてあるのか、そこは学園らしい。

感心しながら校長の話を聞いていると、校長は急に険しい顔つきになった。

「あなた達もリアル世界に嫌気がさしてきたこ?」
「・・・はい、そうですけど・・・?」
何か嫌味でも言われるのかと思って、上目づかいに校長を見る。
そんなただならぬ空気を何も感じないのか、リリアは飛び回ってはしゃいでいる。
「人が集まれば、必ずそこに悩みや苦しみは生まれる。だからここへ来たことは逃げることにはならない。また新たな苦しみを向かい合うことになるのよ」
そういう校長の瞳はどこか悲し気で、校長は私を見据える。
でも、私だって・・・逃げるためだけに来たわけじゃないんだ。

「いえ、そんなこと関係ありません。私はここに・・・自分を取り戻すために来ました。でもここでも困難にぶつかることがあるのなら、その時は戦います」
「あたしもっ!!」
気が付くと、リリアも私のすぐ横にいた。

「・・・そう」
校長は安心したのか、「なら安心ね」そういってその場を去って行った。
「でもなんでいきなりそんなこと言いだしたんだろう・・・」
胸に残る疑問を私はそっと呟いた。

ここは楽園ではない。
そういいたかったのだろうか。